プロフォーマンス・スタッツについて

社会人リーグの充実が日本ホッケー界を救う?!

私は早稲田大学卒業後、古河電工、日光アイスバックスを経て2001年コーチングを学ぶためにカナダバンクーバーに移住しました。
カナダに渡ってあらためて「ここが世界一のホッケー王国だ!」と感動しました。NHLがあるから、またホッケーが国技だから、それももちろんなのですが、やはりそう思った一番の理由はこの国民が皆「アイスホッケーを楽しんでいる」と思ったからでした。

カナダと言えばNHL、だから皆NHLを見たり応援することが楽しみだと思っていたのですが、なんとその競技人口の多いこと!見る以上に自分達自身がホッケーをプレーすることを楽しんでいるんですよね。カナダ人に聞いてみると「ホッケーは見るよりもするものだ」とのこと、確かにジュニアからオールドタイマーまで各年齢別のリーグがありホッケーをする環境もしっかり整っています。

ジュニアのリーグは各年齢と目的別に分かれていて、プロを目指す子供達のためのボディチェッキングリーグと楽しく安全にプレーができるボディチェッキング禁止リーグに分かれています。

ジュニアの子供達が社会人になり今度は趣味としてアイスホッケーを続けるようになります。リーグは「アダルトセーフホッケーリーグ」と言われ、ボディチェックは禁止、乱闘2回でリーグを永久追放されるその名の通りみんなが安全にホッケーを楽しめるリーグになっています。

若手との体力の差が辛くなってくる35歳からはオールドタイマーリーグに登録できるようになります。35歳オーバー、40歳オーバー、50歳オーバー等オールドタイマーの中でもしっかり年齢分けされています。社会人リーグと同じくもちろんボディチェックは禁止ですが、それに加えてスラップシュートも禁止しています。より安全にプレーできるようにリーグ側が配慮しているわけです。
この他にも女性のリーグ、そして初心者の男性と女性で編成されるCo-ed(コ・エド)リーグもあります。

ちなみにこれらのアダルトリーグは「ビアリーグ」とも言われ、つまりホッケーで汗をかいておいしいビールを飲もう!という人達の集まりなのです。おじいちゃんになっても仲間と集まってホッケーを楽しんでビールを飲んでまた昔の話で盛り上がる。本当にみなさんホッケーを(ビールを?!)楽しんでいるんです。

各リーグとも試合時間は1ピリ10分、2ピリ3ピリが各15分、練習時間が5分でインターバルが1分、だいたい1試合1時間で終わります。リンクにあるリーグオフィスで登録さえすればその日たまたま帰省していた昔の友達と「今日試合あるけど久しぶりに一緒にプレーしようぜ?」という感じでプレーすることが可能です。またホッケーがやりたくてしょうがない人は、AリーグのBチーム、CリーグのDチームというように、複数登録してもかまいません。各チーム9月から3月までの間30試合前後のリーグ戦、そしてプレイオフを行います。

チーム登録費は各リンクが運営するリーグによって違いますが日本円で60万円から90万円程度。「高い!」と思う人がいるかもしれません。ただ1チーム15名前後、登録費が90万円として人数で割ると1シーズン1人60,000円、プレイオフも合わせてだいたい35試合分が保証されるので1人1試合当たり1,700円。ゴルフに行くより安いですよね。この費用にはオフィシャルへの給与、レフェリーへの報酬、リンク貸切代、リーグ運営費も含まれているので、日本のように自分が試合ではないのにリンクに行ってオフィシャルやラインズマンをしなければならない事を考えたら、チーム登録費はそれほど高くはないと思います。

今日本は極端な少子化に頭を悩ませています。各学校の部活動は人数不足によりチームすら編成できない状況でアイスホッケー部もこの例外ではありません。この少子化の流れで新入部員を獲得するのが非常に困難なのは明らかです。このままではチームどころか、ホッケーをする子供達がいなくなってしまいます。全国アイスホッケー普及活動に力を注いできた私が行き着いたのは新規入部者の勧誘以上に、今までアイスホッケーを続けてきた選手達がこれからも楽しくホッケーを続けられる環境作りがホッケー人口を維持、増加させるために必要なことだということでした。

アイスホッケーを始めるには初期費用もかかるし、練習時間は遅いし、リンクまで遠い。こんな悪条件でも毎年数百名の選手がアイスホッケーを始めます。それは全国の大学生達です。ホッケー人口が徐々に減少しているこのご時世に本当にありがたいことです。一生懸命練習し、4年間で一人前のホッケー選手に育ちちょうどホッケーの楽しさをわかってきた頃には彼らは卒業しなければなりません。さて彼らの次の活躍の場所はどこでしょうか?実は彼らがホッケーを続けられる場所が極端に少ないのです。

4年間一生懸命練習したとはいえ、地元の社会人チームに入ればジュニア時代から続けている選手達にはかなうはずもありません。チーム登録しても試合にはあまり出られず、国体に連れて行ってもらっても雑用係、5年も雑用をすればその頃には少しぐらい試合に出られるようになっているかもしれませんが、おそらくその前にホッケーを楽しめず辞めてしまいますよね。

もしも彼らがホッケーを辞めず、社会人になっても楽しくホッケーを続けてくれたら、日本のホッケー人口は毎年数百人、十年で数千人増えることになります。また彼らの子供達がホッケーを始めてくれるならば、更なるホッケー人口の増加になります。

社会人チームに登録し楽しくホッケーを続けていましたが、ある日相手チームに現役バリバリの若手が入り、ボディチェックを受けて骨折。家族も仕事もあるこの選手は危険を感じて引退を決意する。10歳以上も年下の若手が乱闘をしたり狙ってボディチェックに来られてはたまったものではありません。別にプロでもないのに、給料をもらっているわけでもないのに、こんな危険な思いをしてまでホッケーは続けません。ゴルフや釣りなどのように趣味として長くアイスホッケーを続けられないのが日本の社会人ホッケーの現状です。

プロではないのなら、趣味として続けるならばスキルの対決で十分です。ボディチェックは全く必要ありません。カナダでもプロを目指さなくなった選手がプレーする場所はボディチェック禁止のアダルトセーフリーグしかありません。安全にプレーできるのであれば、年齢が引退理由にはなりません。30代でも40代でもおじいちゃんになってもホッケーを続けられます。そのように社会人リーグが充実すればホッケー人口は増えることはあっても減ることはなくなります。

社会人リーグの充実、これが私が考える今の日本ホッケー界に最も必要な普及活動だと思っています。

日本社会人リーグの実現は可能なんだ!と思ったのはこの青森県素人リーグとの出会いがあったからです。リーグ登録者数1,000人超、登録チームは約60チーム、30年以上も独自に運営している歴史ある社会人リーグなのです。選手の多くは大人になってから始めた初心者、もしくは数十年ホッケーから遠ざかっていた方々です。中には女性や70歳以上の選手もいます。

このリーグではカナダの社会人リーグと同じように、様々なリーグ独自の規定を設けています。例えばマイナーペナルティ3回で1試合出場停止、ボディチェック禁止、ホッケー経験者の登録については経験年数などの厳密なチェックを行うなどです。試合時間もカナダのリーグ同様短く設定しているため、少人数しか集まらない日でも試合することができます。みんなが同じレベルで競い合い、なおかつ安全で楽しくホッケーができる環境をしっかり整えているので、女性やオールドタイマーの選手達も一緒にプレーすることができるわけです。例えば親子3代でラインを組んでプレーしたりすることもできるんです。

楽しく安全にプレーができるならば、特にIIHFのルール規定に従う必要はありません。例えば故意のトリッピングはゲームミスコンダクトでも良いわけです。世界選手権やプロを目指す選手、国体選手などは別としてローカルで楽しもうとする人達に国際ルール規定など必要ないですから。安全にホッケーを楽しむために独自のルールを採用していることも、日本ホッケー界では最先端の取り組みであると感心しました。

そしてここが、私の日本ホッケー界の改革「誰もが楽しめる社会人ホッケーリーグの設立」「日本ビアリーグ」の起点になると確信しました。